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|| LIVE REPORT ||

【CD レビュー】Gene to Survive by REASTERISK

■アーティスト:REASTERISK (リアスタリスク)
■タイトル:Gene to Survive (ジーン・トゥ・サヴァイヴ)
■発売日:2016 年 4 月 6 日
■品番:REAST-001
■発売元:Meditation Co.
■メンバー:NANA (Vo.)、ATSUSIX (Gt.)、MKT (Gt.)、KT (Bass)、COTA (Dr.)
■ 以前本コラムでレポートした【ワンマンライブ】の様子


世間一般的には、インディーズバンドの音源と言うものは、音質にしろ楽曲のクオリティにしろ、メジャーリリースには一歩及ばないもの、とされている。なぜならそれがインディーズがインディーズである所以だからだ、と言ったところだろうか。確かに製作費の大小は、楽曲や音質の向上にその余地をもたらす。しかし、それとは無関係の地点において、インディーズの作品にも、無数の作品の中で、時にハッとするような秀作が生まれることがある。そのうちのひとつが、この “Gene to Survive” だ。
 
ここまでで既にお気づきの方もおられるかもしれないから、結論から先に言ってしまうと、名作である、と言って差し支えないだろう。彼らが既に界隈屈指のメロディメイカーであることは知っていたし、前作のミニアルバム “HADES” でもその片鱗は見えていた。しかし、それはあくまで序章に過ぎなかったのだ。今や露わになった彼らの作品性の、その正体の最初の一撃とも言える今作は、ある種の戦慄を覚えるほどの良曲のオンパレードで、それでいて全体としての流れもきちんとあり、「何度も聴きたくなる」ではなく、「何度も繰り返し聴かずにはいられない」というほどに、胸と耳に迫るものがある。
 
本稿では、筆者の感想とともに、いまだこの快作を耳にしていない人へのガイドとなるべく、そして既に入手した方に向けてのより深いリアスタ・ワールドへの導きとなるよう、記すものである。
 
 
■ #1. Gene to Survive
アルバムタイトルトラックであり、開幕を飾る一曲目にして、本作で最も解釈に困るのがこの曲だ。インストゥルメンタル (ボーカルなし) の曲であり、解釈は聴く者に全て委ねられている。Gene to Survive = 生き残るための遺伝子、生き残りをかけた闘争 (を繰り広げるそ) のための遺伝子、という激しいタイトルを付与されていることと、静かなギターから始まり、切り裂くようなギターが入ってきて、高い音でのディレイの効いたギターが本編となり、やがてまた引いていくという、全体としては非常に静かな曲調であることとの相反性。そしてこの曲がアルバムタイトルと同じ名前であること、つまりアルバム全体を象徴する存在であろうと言うことだ。仮に具象化して挙げるとすれば、胎内での生命活動をイメージしているのかもしれない。今まさに何かが生まれ出ようとする、その胎動なのだろうか。とにもかくにも、REASTERISK ワールドの開幕だ。
 
 
■ #2. Obliteration
2 曲目からはボーカルが入り、フルバンドでの楽曲となる。前作の 5 曲入りミニアルバム“HADES” を知っている人であるほど、この曲には面食らったことだろう。意表を突いた 3拍でのギターフレーズからのイントロ、スクリームをさらに歪ませたボーカル、メタルコアになりたいのか?と思わせるような荒々しいギターフレーズ、いきなり 2 バス全開のドラム。続く裏打ち 4 ビートの B メロまでを聴いたところでは、前作 “HADES” がギミックらしいギミックは皆無で、シンプル & ストレートなバンドサウンドだったことから考えると、音楽性が変わったと言えるほどの豹変ぶりだ。サビでようやく歌詞が日本語になり、クリーンボイスによるメロディが出てくるが、その後の中間部、そしてアウトロまでこの奇妙とも言える荒々しさは貫かれることになる。「きれいなメロディの REASTERISK」が好きなファンには衝撃的かつ戸惑いを覚える一曲だ。だが、彼らを見放すにはまだ早い。彼らは「曲ができちゃったからアルバムに入れた」をやるタイプではない。かつてないテイストのこの曲がこの順番にいることには意味がある。それは最後まで聴いてみないとわからない。
 
□ Obliteration の歌詞
前回のワンマンライブのレポートでも言及したが、REASTERISK の特徴の一つに「歌詞の暗さ」がある。そこで本稿でも別項を設けて、時に軽快に歌われるメロディの中身である歌詞の内容にも注目してみたい。NANA (Vo) はREASTERISK 以前にはきちんとしたバンド活動の経験がなく、前作“HADES” を除けば、まとまった正式音源は今作が初ということだ。その NANA が書いた歌詞の出だしが “I’m an useless existence of society” = 「私は社会の役に立たない存在」だ。20 代の女のコが人生で初めてリリースするフルアルバムの、その一行目でこんな暗い歌詞があるか!と仰天したことが、彼らの音楽世界に没頭させることになった原因の一つでもある。REASTERISK の歌詞には愛だの恋だの、誰かがいなくて寂しい、会いたいと言うような、世間一般で言われるようなキュートでかわいい「女の子」は一切出てこない。そこで綴られるのは、一つの人格の投影だ。表面的には、頑固で不器用で意地っ張りで、妥協となれ合いを嫌い、孤立することを恐れない高潔さを持つ。しかし一方で、自己の弱さにまみれ、それを嫌悪し、同時にその呪縛から逃れられないことにのたうち、自己の破壊すら夢想するような激しい一面もある。そういう人格をいくつもの方向から切り取った、ある種の叙情的な叙景詩とも言えるものだ。
 
試みに、歌詞の一節を抜粋してみよう。A メロの後半部分だ。わかりやすくするために、歌詞カードに付属している日本語訳の方を引いてみる。
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夢見る場所へ行くため選ぶものは
強者の機微を取ることではなく己の信念を通すということ
不必要なうぬぼれに別れを告げる、勇気を示してみせよう
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華奢で愛嬌のある外見の NANA の中に、これほどまでに雄々しく孤高を求める心象風景がある。この精神性は本作全編に渡って、確固として貫かれている。いったい何がこの荒涼とした沙漠のような内面を作り上げたのだろうか。また、この曲のこの後の部分だけでなく、他の曲でも「あなた」という表現が出てくるが、ここは彼女の心の中だ。「あなた」は全く別の誰かではない。鏡に映った NANA の心の裏返しと言っていいだろう。「オブリタレイション」とは、抹消、消滅という意味だ。彼女が消えることを望んでいるものは、高みを目指して純粋さを高めたい自分を妨げる、怠惰で俗物的なもう一人の弱い自分なのだろう。
 
 
■ #3. Pain Plants a Seed
抑えた楽器とボーカルの静かな出だしから始まるこの曲は、ワンコーラス終わりに短いベースソロ的なフレーズを入れて、間髪入れずに 2 コーラス目が始まると言うスピーディな展開だ。だが、次に同じ静かなA メロを再度持ってくるのではなく、出だしと全く違う疾走感のあるバッキングを持ってきたこと、加えて、ボーカルがアウフタクトで “Insanity”の “In” を入れることで、次の “sa” で楽器隊の音とバシッと合う。それらが緊張感と疾走感を保持したまま、同時に曲の新鮮さも保ちつづけることに成功している。そして次の Bメロでキックのみのドラムと引いたギターの構成が中間部のヤマだ。この緊張感のあるアレンジが素晴らしい。一聴しただけではただの良い曲だが、この後もさり気なく凝った構成となっていて、ざっくり言うと A → B → サビ → A → B → C → D → サビ → サビII (アウトロ兼) といった感じだ。”Obliteration” がある意味で強烈だっただけに、ここでなんとなく流れるだけの曲を持ってきては、アルバム全体の雰囲気が薄れてしまう。そこにこの展開で聴かせる曲を持ってきたのは、作戦の妙と言うべきだろう。
 
□ Pain Plants a Seed の歌詞
種を植える痛み (または、痛みが種を植える)、とは奇妙なタイトルだが、痛みによって植えられた種が萌芽し、育って行って何を生み出すかと言えば、再び痛みだ。これは、その純粋さからただただその負の循環を止めたくて奮闘する一人の人間の物語だ。しかしその人一人の力は非常に弱く、公園で遊ぶ子供たちが争うことさえ止められずにいる。その子供は成長して集団の長となり、従う人々に争うことを強いる。一方で、指導者は彼らに争いと戦いを経てなお生き残ることを命じ、争うものが生まれること、命じる者と命じられるものに分かれることで構成される社会が続いていくという、その循環を止めることを許さない。一見すると反戦的な歌詞にも読めるが、その示唆するところを広く採ると、人間が作り上げる社会そのものが内包する矛盾と、その矛盾を抱えたまま、ある意味でそれを前提としているその有り様への批判とも採れる。NANA の孤独な戦いは続く。いつか、痛みが植えた種が、痛みでない別の何かの芽となる時まで。
 
 
■ #4. Engraver
REASTERISK の前身となる “inchworm” (インチワーム) 時代に作られた曲ということで、他の曲とは一風変わった雰囲気を持つ曲だ。他の曲が縦方向だとするならば、”Engraver”は横に流れる。ボーカルラインも他の曲に比べて高低の動きが抑えめで、低い音で滑り込むように入ってくる立ち上がりから、全編を通して流れるように歌われる。他の曲では見られない滑らかさが印象的だ。全体のアレンジも、前のめりというわけではないが、疾走感重視という感じがする。ギターの音色とボーカルラインのせいなのか、儚さが前面に押し出され、なんとなく退廃的、厭世的な仕上がりになっている。アルバム全体からすると、ちょっと変わり種という気もするが、REASTERISK の古巣の雰囲気が色濃く残り、本作においては側面支援的な存在となっているとも言える。好きな人は非常にハマる曲かもしれない。
 
□ Engraver の歌詞
前述のとおり “inchworm” 時代からある曲なので、歌詞に NANA の手がどの程度入っているのか、正確にはわからないが、言葉のチョイスなどから、かなりの部分 carey (キャリー、inchworm のボーカル) のテイストが残っているだろうと思われる。ただ、ストーリーの裏に流れる寂莫とした世界観が NANA と共通する部分が相当にあるので、アルバム全体の雰囲気、REASTERISK サウンドへの違和感はそれほど大きくはない。
「エングレイバー」とは、彫刻師、彫物師、あるいは穿 (うが) つ者という意味だろうか。彫りこんで刻む者、というタイトルのもとで何が歌われているかといえば、「Engraver と私の物語」なのだが、Engraver がどんな存在であるのか明確には語られていない。既に去った存在であること、女性 (She) であること、「私」と同じように物語をもっていること、魔法の薬を得る手段を知っていること、私に課せられた使命と同じものをかつて持っていたこと。これら以外にEngraver が何または誰であるのかを示すものはなく、提示された要素からそれが何であるのか類推することも難しい。Engraver は最後まで謎に満ちた存在だ。
散りばめられた言葉はそれぞれ連携が薄く、言葉どうしをつないで組み立てようとしても、この歌詞が言わんとする世界がどんなものであるのかは、曖昧模糊として不明瞭だ。だが、全体としては、一つの物語が終わりを迎える物語なのだろうと思う。例えば、非常に親しい人と物語の中にいるような楽しい日々を過ごしたが、それが悲劇的な終わりを迎え、その人は去っていた。そしてその日々を過ごした場所からも離れ、物語を終わりにし、再び物語のない現実に戻って行かなければならない、その数日前の話、という解釈もできる。ひょっとしたら、ハッピーエンドになれずに終わったラブソングなのかもしれないが、これも一部の要素を拾ったに過ぎない。トータルではやはり謎の多い歌詞である。
 
 
■ #5. Abandon the sword
この曲が前半の一つのヤマだ。バンドが明確にそうと言っているのは聞いていないが、このアルバムは二部構成になっているともとれる造りになっている。個人的にはこの曲のイントロが始まった瞬間ガッツポーズものなのだが、この打ちっぱなしのイントロ、普通は最終盤に持ってくるような種類のものだ。曲の終わり方も唐突に終わり、次の曲が静かに始まることで、続く第二部が始まることを告げている。
曲自体は、実に REASTERISK 節な一曲だ。ヘヴィなギターリフ、珍しく足数の多いドラム、ベースのスラップをフィーチャーして緩急を効かせた B メロ、テンポ感を落としてメロディを立たせたサビ、とワンコーラスだけでも非常に爽快感のある一曲だ。そういえばこの曲で本作初めてギターソロらしいソロが出てくる。適度な難易度といい、メロの良さといい、ギターキッズにコピーしてほしい一曲でもある。
 
□ Abandon the sword の歌詞
モチーフは戦争だ。日本への原爆投下を以て第二次大戦が終了したが、その後も世界では戦争、紛争が止まず、平和への道のりは遠い。確かに字面通りに読めば、そういった反戦の歌詞に読める。だが諸君、ここは NANA の精神世界だ。字面通りに受け取るだけでは不十分と言えよう。掘り下げて真意を汲み出さねばなるまい。
まず気になるのは、明らかに戦争がモチーフなのだが、戦争や戦いを確定的に明示する言葉がないことだ。1945 年の黒い雨、武器開発、悲劇、大量虐殺、不合理な抗議、剣を捨て、こういった言葉から、「ああ、戦争を意味しているのだ」と考えるのが普通だが、どうも誘導されている気がしてならない。ミステリー小説なんかで、操作された状況証拠を集めた結果、真犯人ではない別人にたどり着いてしまうことがあるが、それと似た違和感がある。彼女はそんなに単純な歌詞を書く人間か?と。
登場人物は、人間、悪、悪意、悪魔、といずれも抽象的な表現だ。サビの一番盛り上がっているところの歌詞は “Crush evil” 「悪を押しつぶせ」だ。ここから考えて、この歌詞の骨子は、具体的な軍事力の衝突としての戦争というよりは、よりマクロな視点から俯瞰した「人間同士の争い」と言った方が、全体の辻褄が合うように思える。そして押しつぶすべき悪とは、その悪意を持ってしまう人間の心であり、捨てるべき剣とは、悪意を持ってしまう、悪魔にとりつかれてしまう人間の思考なのではないか。「脳が闇に染まりきる前に」、その悪意に至る手段を放棄することができれば、「万事に栄光をもたらす平和」に到達できるだろう、と言っているのだが、この平和がどうやらまた別の暗喩なのだろう。ただ争いがないだけのものではない、一つ階段を上った次の次元にある、新しい精神性を指しているように思える。
 
 
■ #6. Embryo
第二部の始まりだ。その証拠に、ワウのかかったイントロからじわじわ立ち上がるこの曲は、”Gene to Survive” の後に来てもそれほど違和感はなかっただろうと思われる。その後リフセクションに続いて、今回は早めに出てきたベースのスラップがメインの A メロ、ストップアンドゴーのB メロ、そして間髪入れずにサビへと展開していく。本作の特徴の一つに「スピーディな展開」があるのだが、この曲も例外ではなく、ここまでのさっぱりした展開、さらにワンコーラス終わった後からすぐに A メロに突入する展開は、聴く者を飽きさせない。このへんの速度感というか、ある種の割りきりの良さは、いわゆる楽器の美しさ、技術的高度さがもたらす結果を内包しているピュアなメタルとは一線を画すもので、メロディこそ最優先、その次に全体としてのヘヴィさを重視する REASTERISK の方向性がそこにあると言えるだろう。その後の展開は比較的素直だ。アウトロはある種投げっぱなしとも言えるぶった切り感のある終わり方だが、逆に次の “Requiem for Outcasts” へのつながりを円滑なものとしている。
 
□ Embryo の歌詞
Embryo (エンブリヨ) とは胎芽 (たいが)、つまり妊娠三ヶ月までのまだ未分化な状態の母胎中の子供を指す。それ以降の胎児は “fetus” (フィータス) という。歌詞の中でフィーチャーされているのは、embryo (胎芽) と wonder (奇跡) の二つ。”wonder” は動詞では「不思議に思う」という意味だが、名詞になると、「不思議に満ちた存在」つまり「奇跡的なもの」という意味になる。歌詞を字面通りに受け取ると、生命誕生の喜びに満ちた歌のように読める。もしも本人に出産の経験があるとしたら、それはそれで衝撃的なのだが(笑)、内面的な話で読んでいくことにしよう。単純に子供が生まれる話とは関係ない部分は、サビの “The spirits are released now“ 「魂は今解き放たれた」と、最後の一節 “We sing out loud now”。
後者は、和訳では「今、声高らかに叫ぶよ」となっているが、sing out loud は「大きな声で歌う」というのが本来の意味だ。意図的に隠されているとは言わないが、和訳の意訳によって日本語では意味が拡大されているようだ。胎芽は魂であり、魂が形となったものだ。すなわち、それが可能になった環境も含めて奇跡的な存在だ。それを大きな声で歌うとなれば、導き出される解は一つ。音楽が生み出されることだ。REASTERISK で音楽が創りだされていくことなのか、NANA 自身が歌詞を書いて曲に乗せていくことなのかまで判別することはできないが、音楽の創作において、イメージ (魂) が音へと具象化していくことへの喜びを歌うことに、一枚ヴェールをかけたものではないかと思われる。それにしても、珍しく前向きな歌詞の一曲だ。
 
 

■ #7. Requiem for Outcasts
CD リリースに先立って、YouTube にて MV が先行公開された曲だ。YouTube ではサビのアカペラから始まるバージョンだが、アルバムではドラムのライドシンバルのフレーズから始まる。なお、これを書いている時点で MV は 3.5 万回弱の再生回数となっており、曲の良さが広く浸透していることをうかがわせる。Outcast とは out (外) に cast (放り出される / 投げ出される) された者、要するに追放された者、除け者、仲間はずれといった意味で、タイトルは「のけ者のための鎮魂歌」というような意味だ。
この曲は、どの曲にも増して、ライブでの体感をお薦めしたい。最初のライドシンバルでのフレーズとギターのアルペジオに続くリフセクションなどは、聴くたびに「お、きたき!」とその瞬間の轟音に身を浸すことを楽しみにしてしまう。なにしろこのイントロのギターワークが痛切に身悶えするように胸に迫る。メタルのジャンル分けで慟哭系なんて言う言い方をすることがあるが、この曲の方がよほど慟哭していると思う。全体的に痛々しく陰鬱な雰囲気に満ちた曲だ。サビのメロディが曲に対して比較的明るいのに、歌詞のおかげで全く救いになっていない点も、この曲の雰囲気をさらに濃密なものにしている。
 
□ Requiem for Outcasts の歌詞
歌詞が暗い。とてつもなく暗い。前半は虐待でも受けたことがあるのかと思うような内容だ。
「なんてみじめな子供なの」の子供、「生命を与えられた ”ugly creature” (醜い生き物)」とは自分のことだ。暗い過去を背負った自分には、「普通の家庭」が普通にやっていることがまぶしすぎる。そして「いつものように」孤独に「人々が家路をたどるその足音を聞きながらさまよっている」。自分には帰りを迎えてくれる人はいないのだ。それどころか、誰もいないことよりひどい「家」があるのかもしれない。
「新しい日が来ることを望まないが、結局のところその日は巡ってくるものだ」とは、新しい日に希望がないということだろう。
サビの歌詞を読むと、この話の主人公が、故郷を離れた存在であること、そして、視界を埋め尽くすほどの熱量をかつて抱いていたことがわかる。しかし、「その名がわからなければ二度と旅には出ない」つまり、保証がなければもう自分から行動することはない、と言い切っている。その熱とは根拠のない自信で、暗い幼少期から逃れるために行動し、逃れることだけが希望で、そこから逃れさえすれば何かしら必ず良くなると思っていたのだろう。はたして現実は、彼女に対して無情で、そして冷徹であった。こんな暗いサビを聴かされて、NANA と我々の精神の隔絶を想う。主人公の生命の活力は今にも尽きようとしている。最後に一つ救いがあれば、せめて笑って逝けるのに、という状態だ。物理的な死でなくても、「最後の一線」を超えてしまえば、ただ人の形をした抜け殻が残るだけだろう。
 
この曲があまりに印象的なので、ここでアートワークに触れてみたいと思う。お手元で確認できる人は、このアルバムのアートワークを見てほしい。NANA が前方に腕を突き出している。この不思議なポーズは、曲だけ聴いていた段階では意図するところがわからなかった。しかし、歌詞をつぶさに見た今となっては、右手が拒絶、左手が自己の防衛を表しているのではないかと思えてならない。体中をはい回る血管は、REASTERISK のメタファーであり、そこに流れる血液が NANA の精神なのだ。「見えているものは見てもいいけど、入って来ないで」と言わんばかりではないか。このアートワークがまさにこの作品全体を象徴する存在であったのだ。
さあ、次に進んでいこう。まだ我々はこの広大な世界のおよそ半分しか見ていないのだ。
 
 

■ #8. Border of Tears
この曲は 2015 年にシングル化され、YouTube にて MV が公開されている曲だ。悲痛に満ちた前曲から打って変わって、勇壮な曲調だ。ライブではもはや定番のこの曲も、アルバム全体で見てみると、手数の多さとフレーズ的には、細かいフレーズでのストップアンドゴーなどもあり、ニューメタルというより大枠でのメタル寄りの曲だ。今のところ、曲調に対して、歌声の幅は安定しているのだが、逆に見れば、明るい曲はより明るく、暗い曲はより暗い表現を使い分けることができれば、曲ごとのメリハリもより深くなり、今後の武器になろうと思われる。とは言っても、REASTERISK には明るい曲で暗い歌詞というのもある。そこが大いなる矛盾であり、彼らの武器・特色の一つなのだが、それをより上手く使いこなせた時、次の地平が見えてくるのではないだろうか。
 
□ Border of Tears の歌詞
リリース時期通りに曲ができているとすると、この曲に後に前曲が書かれたことになる。おそらく順番が逆なのだが、それはそれとして前曲からつなげて聞いてみると、”Requiem for Outcasts” で死にかけていた主人公が、この曲では、傷だらけの血まみれになりながらも立ち上がっていく様子、とも思える表現で始まる。仮に曲解だとしても、ここまで深読みしてしまった身としては、「よかった、あの子は死なずに済んだのだ」と安堵せずにはいられない。
歌詞全体を覆うのは、前曲とは打って変わって、過去との決別と決起の精神だ。自身は傷つき、仲間は皆倒れ伏した。一方で鍛えられ、矯 (た) められて、(おそらく精神的な) 強靭さを身につけたであろう主人公は、前進することにもはやためらいを持たない。敵が誰なのかもわかっている。とは言え、孤立無念の徒手空拳の状態だろう。この戦いがドン・キホーテ的でないと誰が言えるだろうか。なお、最後の敵は “The phantom of your past” であるとほぼ明示されているが、”you” が誰なのかは、聴く者に委ねられている。
 
 
■ #9. Enigma
さて、後半三分の一に取り掛かろう。この曲は本作で今まで登場しなかった要素が採り入れられている。中間部のベースのリフに対してのギターのカッティング、中間部のハーモニーではないボーカルエフェクトなどがそれだ。イントロの電子音風のギターも面白い。また、イントロ後半で風が吹くような音がしているが、これはボーカルの低いスクリームにエフェクトをかけたものだろう。
個人的にはサビ前のベースがフィーチャーされるところで、歌は上がっていくラインなのに、ベースはいったん上がってから反発するように下がっていくあたり、そして二回目ではダブルストップ (和音) になっているあたりに聴き入ってしまうのだが、これは筆者がベース弾きなためなので、悪しからず。曲全体としては、ボーカルから始まり、ボーカルソロで終わるのも、REASTERISK があくまで歌モノであろうとする方向性の意思表明と言えるだろう。本作は曲によってはレコーディングした時期がばらけているものもあるようなのだが、個人的にはこの曲が一番ベースが前に出ており、楽器的な面白さを聴く曲として楽しんでいる。
 
□ Enigma の歌詞
Enigma (エニグマ) と言って最も有名なのは、ナチスドイツの暗号とそれを生成する機械のことだが、辞書を引くと、「謎の人」「不可解なもの」とあり、大学なんかで教授が苦笑いしながら学生に言う「良い質問だ!」に近いものがある。幅広く解釈できる言葉であり、わからないものは何でもエニグマと言って片づけることのできる、便利な言葉の一つだ。
この曲のテーマは壮大で哲学的だ。解答は初めに示されている。「我々は人生の神秘の謎を知るために生きている」とある。そしてその謎とはつまり Enigma だ。エニグマを手にするためには、「魂を解放」し、「運命の車輪を廻し続け」て、「あてがわれた道を外れ」 = 自らの手で道を切り開き、「黒衣の使者」= 死、が訪れるその日まで求め続けて、そうして得られるものがそれなのだという。もはやそれを求める行為そのものが解なのではないかとも思える。やがて得られるであろうエニグマの解は、当然人によって異なるだろうし、歌詞にもあるように、それを求めることを諦めることもできる。だが、誰が諦めても私は諦めないという決然とした意志をそこに見ることができる。ある意味では、頑固さと言えるかもしれない。ただし、その頑固さゆえに、解を求める他者に手を差し伸べることも、逆に助力を得ることもしないのだろう。状況としての孤独の内に潜む、その由来が垣間見える歌だ。
 
 
■ #10. Ancient Green
静かに始まってヘヴィになる、というのはある意味で REASTERISK の定番なのかもしれない。それが、徐々につながるか、突然切り替わるのかの違いはあるにせよ。この曲もそういう方程式の中にいる。静と動、抑えたセクションと激情ほとばしるセクションが次々と切り替わり、その中を貫くボーカルがはっきりとした彩りを支えている。しかし、ボーカルだけが曲の中心なのではなく、かと言ってギターをはじめとする楽器隊が曲のイニシアチブを完全に握っているわけでもない。ある曲のイントロを思い浮かべると、次にボーカルを口ずさみたくなるし、サビの鼻歌を歌ってみると、その後ではギターのリフが印象的であることに思いを致す。この微妙で繊細なバランスが REASTERISK の特色であり、場面ごとの切り替わりとそれぞれの鮮烈な印象が、聴く者を飽きさせないどころか、彼らの世界に留め置いて放さないのだろう。メインソングライターの Atsusix (Gt) に聞いたところ、本作は「全曲シングルカットするつもりで作った」とのことだが、まさにその言や得たりというところだ。
 
□ Ancient Green の歌詞
解釈の可能性は二つある。太古の緑というタイトルと、猿をモチーフにした歌詞から、環境保護ソングなのかと言えば、そう取れる。むしろその方が素直に読み取ったと言える。ただ筆者には一つ疑問がある。 “Requiem for Outcasts” でどす黒い精神の深淵をぶちまけたNANA の歌詞について、そんな字面通りの解釈で良いのかという戸惑いだ。むしろこの歌詞全体が暗喩で、何かもう一段踏み込んだ解釈が可能なのではないだろうか。
その方向で読み進めていくと、いくつかのことがわかる。まず最初に猿が出てくる。猿のいる世界は、人間によって汚染されてしまっている。そして清浄だった過去の状態が未来において回復されることを望んでいる。全体としてはこんな感じだ。ここで一つの仮説を立てる。
最もフォーカスされているのは、猿の夢だ。歌詞全体が暗喩なのだとしたら、森林伐採、酸性雨、オゾン層破壊、大気汚染、というような具体的な名前は、単に世界を構成するための要素に過ぎない。むしろ見るべきは、「太古の緑への回帰を願うこと」なのだが、それは結果であって、そのさらに中心に意図されているのは、滅亡だ。そして滅亡すべき対象は、人間の社会で汚染されてしまった自分であって、同時にそれを良しとすることができない自分でもある。その姿は過去に対する後悔に満ちている。その卑屈さゆえに自らを猿に見立てているのだろう。しかし、その汚染に満ちた世の中でなお、それを踏み越えて明日を求めるのが人間というものだ。夢の中に留まるための猿の皮を脱いだら、辛く厳しい人間社会と向き合わねばならないが、そうと知っていてなお、いつかその決意を固めることができる日が来るだろうか。
比較的直截な歌詞に対して、その裏に潜むものを探るという、”Abandon the sword” と同様の解釈が成り立つ歌詞でもある。全体的な世界観としては、「風の谷のナウシカ」の原作版のテイストに近いものもの感じられる。
 
 
■ #11. Zenn
そろそろクライマックスだ。打ちっぱなしのイントロという意味では、”Abandon the sword” と似た形で始まるのだが、ギターのフレーズが全く異なるために、似たような曲と言う印象は全くない。サビが日本語でそれ以外はほぼ英語というのが本作のボーカルのスタイルなのだが、この曲でもそれが実に利いている。この切り替わりによるヌケた感じというのは、ひょっとしたら英語がネイティブ並みにわかる人にとっては、逆にわかりづらいのだろうか。
この曲の、最も印象的な部分は、2 回目のサビが終わった後の、倍速の 2 ビートにアレンジされた部分だ。この曲を筆者が初めて聴いたのはライブでだったのだが、こういうアレンジは絶対にしないバンドだと思っていただけに、このセクションを聞いたときには度肝を抜かれた。そしてそのまま 3 回目のサビを駆け抜け、アウトロに文字通りなだれ込むという大胆さには、驚嘆の一言だ。
 
□ Zenn の歌詞
REASTERISK の特徴の一つに、メロディはきれいなのに歌詞は暗い、というのがあるが、その一つの顕著な例がこの曲にある。”Nothing’s gonna change the world”「なにものも世界を変えられない」という否定的な歌詞が、これほど軽快なメロディに乗せられている曲があっただろうか。さらに言うなら、前向きな歌詞の曲と言うのはこの曲以外にもあったが、勇壮で前向きな精神の発露に、他者の介在はない。この曲でも、時折他者に助言をする様子が垣間見えるのだが、自分は他者の助けを必要としない。誰にも頼らず、救いを求めず、決然とまなじりを決して歩きだしていくのは、NANA 一人である。誰が何を言おうと、孤高の精神で我が道を行き、その結果がどうであろうとそのすべてを受け入れる覚悟がほとばしっているのがわかる。その一方で、他の曲では過去に対する拘泥があったり、弱い自分から逃げられない姿も見えたりする。全く人間というものはいびつにできているものだ、と慨嘆せずにはいられない。
 
 

■ #12. Vacant Utopia
前作 “HADES” に収録されていたもののリテイクだと言うが、本作収録版では、ドラムがシャープになっていたり、ボーカルのコーラスのかかり具合が変わっていたり、あるいはところどころフレーズの細かい違いはあるものの、全体的な曲調に影響するほどの違いはない。両方とも持っている方は、そのあたりを聴き比べてみるのも一つの楽しみ方かもしれない。
前曲でクライマックス感が出ていた後に、屈指の美メロ曲のこの曲でトドメという感じだ。ライブで言えばアンコール的な立ち位置と言っていいだろう。筆者が REASTERISK を記憶したのはまさにこの曲であったと思う。この幸福感に満ちたアンサンブルはぜひともライブで体感していただきたい。
ところで、冒頭のあたり、 “Obliteration” の項に「この曲がここにいるには意味がある」と書いたのだが、そのタネ明かしをしよう。全曲聴き直してみると、”Obliteration” は確かに異色であった。だがそこから緩やかなメロディへの回帰をたどり、最後にメロディ全開の“Vacant Utopia” に流れ着く。そこにはアルバム全体で一つの大きな、そして少しのうねりを伴った流れがあり、今や ”Gene to Suevive” というしばしのインターミッションを経て、あの尖った刺激的な曲に戻るのが必然に思われる。つまり、二周目に入れという呼び水が見えているのだ。そういう意味で、本作は頭から最後まで何周でも楽しめる快作となっている。
そして、その楽しみが増すほどに、いずれリリースされるであろうセカンドアルバムへの期待が高まるのだが、その片鱗は既にライブで発表される新曲によって、少しずつ提示され始めている。その気配をいち早く確かめたければ、やはりライブに足を運んで実際に自分の目と耳で試すほかはないであろう。
 
□ Vacant Utopia の歌詞
この曲の歌詞は、”HADES” 収録時との変更はない。そのせいか、他の曲と比べて若干の雰囲気の違いがある。社会との隔絶に懊悩しているのはいつものことなのだが、この曲では、社会と他者が自分とうまくコミュニケーションできないことを、あえて許そうとしている。例えば前曲 “Zenn” では、他者との関わりを最初から求めておらず、別次元に違う世界を創造してでも自己の精神性を確保しようという、ある種の力強さがあるが、この曲では今いる世界とのやりとりがうまくいかなくても、それを許し、受け入れることで、同じ世界に共存しようとする意志が見える。ただ、その許しは諦めに似た部分があり、困難な状況を根本から解決するわけではない。このあたり、前作からの時間の経過の中で、NANA がある意味での精神の強靭さを身につけたのかもしれない。
なお、本作でこの曲に一か所だけ “Love” という歌詞が出てくるが、それはじきに淀んで濁ってしまう存在であり、美しくない状態、人に見せるべき状況でなくなってしまうそれを探さないことを求めている。ここに、あるいは初期からの NANA の精神性を推し量ることができる。
 


 
といういわけで、実験的な意味も含めて、曲と歌詞についてのレビューをかなり掘り下げて書いてきたのだが、いかがだろうか。後出しで申し訳ないのだが、この文章がREASTERISK の正解とは限らない。かなり私見が入っているし、仮説の上に仮説を立てて解釈した部分もある。果たしてその正体は、これを読んだ人それぞれが REASTERISKに触れて確認するしかない。音楽の感想に絶対の正解というものはない。聴いて、見て、その結果の感想があなたの正解なのだ。本作を取り上げたのは、これがほとんど自主製作と言っていいほどの限定された流通にしか乗っていないことを惜しんだためでもあり、この作品と REASTERISK の名が広まることにより、インディーズと言えど、背筋が伸びるような秀作をリリースするアーティストがいる、ということを世間に知らしめんとするがためでもある。よって、このレビューと “Gene to Suevive” と、どちらを先に触れるか、順番は問わないのだが、REASTERISK が自分の琴線に触れたという人はぜひともウェブ、リアルを問わず、告知に助力いただきたいのである。世の中にはこんな素晴らしいアーティストがいる、ということを、今や個人単位で発信できる時代となった。それを活かさない手はなく、それが拡大することは、つまりシーンの拡大にもつながる。そして、ことにインディーズシーンには、お客さんの手助けというものが必要不可欠なのだ。例えばライブハウスでインディーズのバンドを見る、例えばバンド関係者以外でこのレビューを読んでいる、というあなたはその時点で既に、好事家の部類に入る。言い換えれば、それをしている人は選ばれた人種なのだ。さあ、我々の尖ったアンテナが受信した、俗人には未知の、まだ我々だけが既知の宝石の価値を世間に喧伝しようではないか。

■プロフィール
【JUN】 ヘヴィメタルバンド XECSNOIN (ゼクスノイン) のベーシストとして 2001 年から音楽シーンに参入する。現在は Sirent Screem、MaKORN にて活動中。00 年代後半より SNS 上でで個人名義でコラム執筆を開始。2015 年から、物書きを本格的に始める。在独経験を基にした独自の観点で、音楽はもとより、比較文化論から政治経済に至るまで多岐にわたり論評を展開中。その独特のわかりやすさ重視の文体が好評を博している。趣味はモータースポーツ在宅観戦。 
 
※個人ブログ  ⇒ 『長文御免』